469人が本棚に入れています
本棚に追加
逞しく引き締まった腕で抱かれ、ディオンの胸に頬をピッタリとくっつける。心臓の上に耳をつけるように。ディオンはここにいるってことを、ここで生きているってことを実感するために。
『…俺は、アイツを殺したことを後悔していない』
『……うん』
『お前を失うなら、アイツを消す。そんな単純な選択をしたまでだ。あの時、他に方法があったのかもしれねぇけど、あの時の俺にはあれが最善の方法だと思ったから、迷わず引き金を引いた』
『……』
瞼は閉じずに、ディオンの心臓の音に神経を集中させる。瞼を閉じてしまえば、あの時の光景がまざまざと浮かびそうな気がしたから。
大切な人を、大切な人が殺めた瞬間のことなんて思い出したくもない。自分のせいなら、尚更。
『けどな、それをセラフィーナが自分のせいだと責めるようになっちまったんなら、俺はあの時の自分をぶん殴って止めてやりたい。俺は、こんなことを望んでいたんじゃねぇから』
『…っう、ん』
『アイツは、壊れてた。セラフィーナへの想いを爆発させて、おかしくなった。天才は、使い道を間違えれば一瞬で悪魔になる』
『……』
『ロイスを殺さなければ、いつか必ずセラフィーナも殺されると思った。だから、俺がそうなる前にアイツを殺したいと思った。俺がそう思ったから引き金を引いた。だから、セラフィーナのせいなんてあり得ねぇ』
『…っ…ごめ、なさい』
こんなことを言わせてしまってごめんなさい。自然と出た謝罪の言葉に、ディオンがため息を吐く。
『んで謝る?お前は何も悪くねぇんだって。俺の判断で、俺の手でアイツを殺したんだから、全部俺が悪いに決まってんだろ。それに、謝るのは俺の方だ』
『え…?』
『……あんな形でしかお前を守れなくて、悪かった。ロイスを助けてやれなくて…本当に、ごめんな。…ごめん』
――――…あぁ、何で今まで気付かなかったんだろう。
ずっと、自分の事だけを責めてきたけれど。きっと私と同じくらいに、それ以上にディオンも自分を責めてきたんだ。あの暗い牢獄の中で、1人。
.
最初のコメントを投稿しよう!