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光を失った目。 何を映しているのか分からない目。 『セラフィーナ!!こいつ、何なんだよ!?いきなりキスなんかしやがって……ッ』 『……ディオン、離して』 『え、…あ、わりぃ……けどよ、こいつどう見ても危ねぇヤツだろ。俺の後ろにいろ』 『ううん、彼は―――…五十嵐響也さん。同じクラスで、私の……恋人』 『…………』 響也さんから目を逸らせずに口頭で伝えると、するりとディオンの腕が解けた。分かってくれたんだと思い、ディオンの腕の中から抜け出し、響也さんの元へと歩み寄る。 前に進む一歩が鉛のように重い。たった数歩で手を伸ばせば届く距離に彼はいるのに、一歩前に進むのに数分もの時間をかけているような気になる程だった。 震えと緊張で、今すぐにでも後ろにいるディオンの方に戻りたくなる衝動を必死に殺し、やっとの思いで辿り着いた響也さんの背中に腕を回し、抱き締める。 2年前のあの時は出来なかったこと。繰り返してはならない。もう、二度と。 「響也、さん…」 「……」 「響也さんっ…ごめんなさい…私、ディオンとは中学生の時からの付き合いで、抱き合ったりするのは日常茶飯事だったから……疚しいことは何もないので、誤解、しないで…下さい」 「……」 何も答えてくれない響也さんの胸に額を押し付け、今出せる最大限の力でしがみつく。 嫌われたくない。見放されたくない。捨てられたくない。突き放されたくない。そんな願望がぐるぐると。 「…お願い、します。私のこと……嫌いにならないで…」 言葉の終わり、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響く。だけど私も響也さんも、そしてディオンもそれには反応しない。5時限目のサボりが決定した瞬間だった。 「ハクちゃん、たくさん聞きたいことはあるんだ。でもまず1つ、聞いてもいい??」 「はい」 「……オレのこと、好き…?」 それは単純な質問だった。単純に聞いたらどうしてそんなことを聞くのかと不思議に思うほど、当たり前のように首を縦に振る自信がある。 でも、単純な“好き”ではないから。深く、重く、暗いものまでを含んだものだと、分かっているから。どんなに考えても、肯定の意を示すことは出来なかった。 .
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