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《PM12:41》―食堂― そこは、たった数分前と同じ場所である面影など何一つ残してはいなかった。 休みなく立ち上る黒い煙。あたりが一面火の海と化す。その海の中に沈む、多くの人体。もう、形すら成していないものが多い。 『ぅ、…あ』 奇跡的にと言うべきか、残酷なことと言うべきか、かろうじてまだ息をしていた若者。しかし、その片腕はない。 うっすらと目を開けて、目の前にある光景に頭が回らない。そこは、惨憺たるありさま。まさに、地獄絵図。 ――――バリバリバリバリッ 重々しい音を轟かせながらゆっくりとこちらに倒れてくる太い柱に、彼は一瞬で自分の未来を悟った。悲鳴を上げる力もなく瞳は閉じられる。 柱に潰され息を止めたのが最後か。柱が倒れている最中に心臓が力尽きたのが先か。もう、知るものはいない。 そしてその数秒後には、また別の場所から火の手が上がる。 高等部、大学、大学院に属する全ての人間が使用できる広い食堂。その大きさを例えるなるば、サッカー場3つ分ほどだ。 お昼の時間帯、今が一番込み合っていたその食堂にいた人数はおよそ250人。1人残らず、無惨な死体と変わり果てた。 《PM12:43》―高等部A棟3F― 高等部3年生のクラスが入っている場所も、既に手遅れの状況となっていた。 教室で昼休みを過ごしていた生徒は数多く、たった1人の男の言葉が爆発を起こしている犯人にスイッチを押させ、意味もなく餌食となった。同じくして、A棟の校舎は崩れ落ち、下の階にいた生徒や教師も潰れた。 また、A棟からB棟、C棟に繋がる渡り廊下を文字通り火と煙は人のように渡り、それはジワジワと押し寄せていく。 食堂の爆発で多くの人間は異常事態に気付いたが逃げ遅れた。逃げる暇など、無かったからだ。 食堂に一番近かった大学の建物は、食堂で爆発が起こったとき、爆発の影響を受け地震のような揺れに襲われていた。震度6強ほどの揺れは、ほとんど地震を経験したことのない者たちにとって脅威でしかなく、パニックへと陥れたのだ。 .
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