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海の中にいる魚は海の姿が分らないように、狂気の中にいるロイスは自分が既に正常でないことになど思いもよらない。これが一番、正常な判断だと狂った思考の中で下した。 『ハクラ以外の人間を全員殺せば、ハクラを見る人間を全員殺せば、僕たちはずっと2人きりでいられる……。最後にディオンを殺せば、終わりなんだよハクラ…』 『な、に言って…』 『これでやっと、2人きりになれるね』 再び、銃をディオンに向ける。今度こそ、確実に獲物を仕留める力強くも濁った瞳がそこにはあった。 この10年間、ずっと一緒にいた家族のように大切な人が自分が最も恐れているものを、同じく大切な人に向けている。それだけでハクラは立ち上がることも出来ないが、本能で止めなければと勝手に口が動いていた。 『ロイス!!!お願い、やめて…っ』 『……遠くに行こう。2人だけで。もう邪魔者は誰一人いなくなったから。僕がみんな消してあげたから』 『違う…!!邪魔者なんて、そんな人、いない…!!!』 『大丈夫、怖くない。だってハクラ……僕たちは、ずっと一緒だったでしょう?』 『っ……』 そのロイスの、悲しいほどに弱弱しい瞳がハクラの心を抉る。そうだ、私たちはずっと一緒だった。小学校の入学式も、お父さんとお母さんがいない夜も、一緒にお風呂に入って、ご飯を食べて、一緒の布団で寄り添い合いながら眠りについた。 この爆発を起こしたのは、どう見てもロイスだとハクラにも分っていた。分っていたけれど……この人だけを責めることは出来ない。 自信家で少し人を見下すような言い方をするときもあるけれど、ハクラにはずっと優しかった彼が人を殺すことまで考えたのは、自分のせい。自分が、ロイスの人格を壊した。だから。 『ハクラも僕のこと、大好きだよね?だから迷ったりしないよね?ハクラ……やっと、やっとこれで…』 震える足に何とか力を入れて立ち上がる。ロイスだけを、見捨てることは出来ない。ならば、せめてディオンだけは彼に殺させたりしない。止めなければ。私はずっとあなたの傍にいると、だからディオンを殺す必要はないのだと言い聞かせなければ。 .
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