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伸ばされたロイスの掌に向かって、ゆっくりと腕を持ち上げる。男の人とは思えない、綺麗な指先。だけど私よりずっとしっかりしてて大きな掌。
温かい手。頭を撫でてくれた手。背中を押してくれた手。抱き締めてくれた手。大好きで大切な手。
――――――爆弾を何個も作った手。ディオンへと銃を向けた手。人を、殺した手。
掴もうとした、触れようとした指先は白桜自身でも驚くほどに震えていた。お願い、震えないで。震えないで、私の心。迷わないで、私の選択。揺らがないで、私の決意。
白く薄い、儚げな指先がその手に触れようとした。しかし、触れることはなかった。
『セラフィーナ!!ダメだ…!!!』
響き渡った、もう1人の大切な人の声。咄嗟に、伸ばしていた腕を引っ込めた。声のした方を見れば、銃弾を掠めた箇所を手でぐっと押さえているディオンの姿が飛び込んできた。
腕からは止まることを忘れたように赤黒い血が流れている。白桜は、血に弱い。反射的にディオンの元へと駆け出しそうになった足をその場に縫い止めたのは、後ろから痛いほどに刺さる殺気と視線。
ディオンは痛みに顔を歪めながらも、全身で訴えるように声を張り上げた。
『俺は…っ…絶対に死なない、から…!!ロイスの手を取ったら、ダメ、だっ…!!』
その言葉に、白桜はぐっと喉が締め付けられる感覚を覚えた。あっという間に涙が浮かび上がり、白い頬を濡らしていく。苦しくて苦しくて、誰かこの現実は全て夢なのだと言ってほしかった。
『ハクラ、僕の所へ来てくれるよね…?』
『セラフィーナ!!!迷うことなんてねぇーよ…ッ』
『黙れ……!!!ハクラは僕のものだハクラは僕のものだハクラは僕のものだハクラは僕のものだ…!!!!!』
『お、前……本気で………』
狂っている、としか言いようがなかった。愛に溺れた愚かな思考。白桜はロイスに対して、最早恐怖しか抱けなくなっていた。
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