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どちらも捨てることは出来ない。白桜は苦しい選択を迫られていた。 『ハクラ、迷うことはないよ。さぁ、僕と一緒に行こう』 『本当にそれでいいのか!?お前はそれで幸せなのか!?……ぐはっ…』 大声を出したせいで腕の傷口が痛むのか、ディオンは顔を歪めて痛みに耐える。そんなディオンを目の前に白桜の足はディオン側へと傾くが、ロイスの腕がそれを許さない。 『僕たちは2人きりの世界で生きていければいいでしょう…?大丈夫だよ、ハクラ。ディオンがいなくても僕がずっとハクラのそばにいてあげる。じゃないと僕………もっとたくさんの人間を殺しちゃうかもしれない』 『…だったら俺が……俺が、お前を殺す!!!』 勢いでそう叫んでしまったものの、今のディオンには成すすべがない。銃はロイスが握り、白桜の腕も掴んでいる。 己の片腕からは血が溢れ、今は使い物にならない。もう一度、先ほどと同等の手を使うことでしか銃を取り戻すことは出来ないが、同じ手にロイスが引っ掛かるとも思えない。 どうすれば、白桜も自分も守れるか。考えるが、痛みと恐怖と緊張でもともと良くない頭はさらに働いてはくれない。 諦めたくはない。諦めたくはないが、この状況を打破出来る方法も分からない。いよいよ自分は本当に死ぬかもしれない、と思い始めた時。 『……ハクラ??』 ロイスが握っていた銃の銃口に、そっと白いものが重ねられた。真っ白な手の指先は、色をなくしており、震えている。白桜の小さく雪のように白い手は、真っ黒で恐ろしいものの口を塞いでいた。 ディオンからは白桜の表情は見えないが、ロイスの信じられないものを見るような表情から、白桜はロイスに敵意を向けているのかもしれないと思った。 『ロイス、お願い。こんなことはやめて』 『どうして…ハクラ……?』 『私はこんなことをするロイスとは一緒にいたくない。いられない。ディオンと一緒にいたい』 『は……』 普段、人を傷つけるような言葉は決して言わない白桜だからこそ、その言葉は重かった。ロイスは半ば放心状態で白桜を見つめる。 嘘だと、冗談だと言ってほしい。そんな願いを込めた瞳は白桜のグレーには勝てず、ゆらゆらと揺れた。 .
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