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白桜はそのまま、そっとロイスの手の中から銃を抜き取って地面に落とした。カラン、という音がサイレンや炎が燃え上がる音、悲鳴の中に消えていく。
絶望しきった顔のロイスを、白桜はそっと優しく抱きしめた。176cmとこの国ではさほど高くない身長も、細く華奢な白桜を前にすると大きく見える。
ロイスの肩口におでこをつけるように、白桜はただひたすら抱きしめた。母性のように、優しく、温かく。本来のロイスに戻ってほしいと切に願いながら。
『ロイス…好きよ、大好き』
『………』
『また、3人で楽しく過ごそう…?』
そんなことは、無理だと白桜もディオンも分かっていた。これだけ大規模な爆発を起こし、今も尚人が死んでいるかもしれないというのに、この爆発を起こした張本人がそう簡単に幸せになれるはずがない。
なれるとしたら、きちんと罪を償い、出所してからのことだろう。しかし、裁判で厳しい結果が出ることは明らかだった。
『お願い…ロイス…』
か弱い腕がロイスの背中に回る。茫然自失とした様子のロイスの瞳に、ある感情が表れ始めたことにディオンはまだ気付かない。
愛情の反対は、憎しみ。憎悪。紙一重の感情がゆっくりとロイスの中に根を伸ばしていく。
周りの人間を殺しても自分のものにならないのなら。自分以外の男のものになるくらいなら。いっそのこと、殺してしまおう。殺して、自分も死んで、一生自分だけのものにしてしまおう。
『…ッ!?』
ここでディオンはとある異変に気付いた。ロイスの表情が今まで見たこともないほどに憎悪で染まっているのだ。
ディオンに銃を向けていた時とも違う、それとは比べ物にならないほどの凶器と狂気を含んだ憎しみに満ちた顔。本気で、人を殺すときの顔。
背筋に冷たいものが流れる。まさか、そんなわけ…そう思いながらも今のロイスは狂っている。何をしてもおかしくない。そして決定的だったのは、ロイスの手が白衣のポケットに一度入ってから、ゆっくりと出されたとき。
―――――――銀色に。
―――――――鈍く光る。
―――――――凶器。
ロイスが所持していたのは、銃だけではなかった。サバイバルナイフも、しっかりと持っていたのだ。
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