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―――――――すべてが、スローモーションのように見えた。
白桜が殺される。
白桜が消える。
白桜が死ぬ。
ディオンの頭の中で最悪の事態が浮かんだ時、自分の中で何かが切れる音がした。それからのことは、ほとんど覚えていない。
気付けば目の前には血まみれのロイスが倒れていて、己の手の中にはあの拳銃。少し離れたところで、白桜が顔を両手で覆って泣き崩れていた。
理性が切れたのだと、ディオンは随分と冷静な思考の中で思った。元々感情的になりやすいディオンだが、理性を忘れる経験は初めてだった。そして、理性が切れる怖さを初めて知った。
『……あ、俺…』
『っうぅ、あああぁ、……さい、ご、め…なさぃ…っっ』
『セラフィーナ、』
『うあああぁぁ…ディ、オン…ディオンっ…』
茫然と立ちすくむディオン。倒れているロイス。絶望のどん底にいる白桜。
3人でいつも一緒にいた。ロイスとディオンはお互いを嫌いながら、牽制しながら、白桜を間に挟んで、いつも一緒にいた。
白桜は3人でいる時間が一番幸せだった。楽しかった、嬉しかった、大切だった。
『あ、あ、っあ、』
『………』
『ごめん、なさい…っ!!ご、めな…さっ…ごめんなさぃ…!!!』
白桜が懺悔に苦しむなか、この時まだロイスは微かに息をしていた。動かない身体の上にあるだけの魂。それももう、力尽きようとしているのが、ロイス自身も理解はしていた。
(あぁ、ハクラ)
(僕は君を愛していただけなんだ。君を僕だけのものにしたかっただけなんだ)
(可愛い可愛いハクラ……どこから僕は、間違ったのだろうね。いつから怖くなったんだろうね。君が、他の男のものになることを)
(…ごめんね、ハクラ。僕は今、嬉しい。だって、)
だって、これで一生ハクラは僕に苦しむんだから。
―――――――痛みと眠気と共に、幸福を感じながら、ロイスは静かに闇へと沈んだ。
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