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でもやっぱりそれはオレの思い違いだったみたいで。
12月、卒業する3年生を送る会の準備の中に在校生全員が書いた桜形のカードにメッセージを書いて満開の桜の木を作ると言う企画があった。
冬休みに入る前にメッセージカードを集めたい実行委員会の言葉通り、オレたち在校生は配布されたカードにありきたりな言葉を書く。
ハクちゃんは授業中も休み時間もほとんど寝ているからこの時間もそうなのだろうと思っていたけど。
ペンを持ち、カードにすらすらと何かを書いた後、すぐに寝る体勢に入ったのをオレは見てしまった。
それはほんの一瞬のことで。オレ以外の人は誰も気付かなかったくらい、一瞬の時間だった。
あのハクちゃんが一体何を書いたのか、それはもうすごく気になって気になって仕方がなかったオレは。
ハクちゃんの隣の席の男子に適当な言い訳をつけて近付いて、スッとハクちゃんの机の上に置いてあった桜形のカードを。
ポケットに、入れた。
自分の席に戻ってこっそりとカードを取りだし見てみると、そこに書かれていたのは。
『ご卒業おめでとうございます』
流麗な筆体で、ただそう一言書かれていた。
日本語が書けると言うことはもちろん話すことも出来るだろうし、流れるような文字は日本語を書くことに慣れているように見えた。
てっきり英語かフランス語でも書いたんじゃないかと思っていたオレは、驚愕したと共に。
もっと彼女のことを知りたい。そう、強く思うようになった。
どうして誰とも話そうとしないのか。どこから転校してきたのか。どうやったらこんな綺麗な字を書けるのか。
家族は、趣味は、特技は。閉ざされたその口からいつか、聞きたい。
その時、ハクちゃんはどんな声で話すんだろう。どんな表情をしているんだろう。
笑顔が見たい。照れた顔が見たい。怒ってるところも、泣いているところも、嬉しそうな顔も、今の無表情からは想像できないようなたくさんの顔を。
見たいと、思ったんだ。
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