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どのくらいの時間が経ったのだろう。数分だったかもしれないし、もっと長かったかもしれない。音が止み、辺りには静けさが取り残されていた。
そっと目を開けて、立ち上がる。人の気配は感じられない。だけど、よく目を凝らしてみれば、数十メートル先に人が倒れているような影が見える。震える足を恐る恐る前に進めた。
「和遙、さん……?」
あと数メートルというところで、小さく漏れた私の声に倒れている人の肩が揺れたような気がした。もう少しで和遙さんかどうか、確かめられると思ったとき、私の足元でカシャッという音がした。
何かを踏んだような感触にその場にしゃがんでみると、そこには画面に大きくヒビが入った携帯があった。その携帯に見覚えがあった私は、弾かれたように倒れている人の元に走る。
「和遙さんっ…!!」
そしてやっぱり、倒れていたのは和遙さんだった。意識はあるのか、微かに呼吸を刻む音がする。膝に彼の頭を乗せ、何度も名前を呼んだ。
「和遙さん!!和遙さんっ!!!」
「……ぁ…はく、ら…さん…?」
「私が分かりますか…!?しっかりして下さい、和遙さん…っ。あぁ…どうすればっ…き、救急車!!すぐに救急車を呼びますね……!!」
極度の緊張で思考が正常に働いていなかった私は、ようやく救急車を呼ばなければいけないことに気付き、鞄から響也さんから頂いた携帯を取り出す。緊急連絡のボタンを押して、119にかけた。
事情を説明して場所を伝えようとしたが上手く言葉が紡げていたか、分からない。とりあえずすぐに向かうという声に少しだけ安心できて、通話を切った。
「もうすぐ救急車来ますからね…っ。どこか、痛むところはありませんか??あ、どこも痛いですよね…私の声、聞こえてますか…?」
「は、い……で、でも…っ、どうして、」
「終業式の日からずっと気になってて…そしたらさっきたまたま和遙さんが男の人たちに連れていかれるのを見たんです。気付いたら、ここにいました…」
「ありがとう、ございます…」
殴られて傷が痛むのか、喋りずらそうだ。声も普段よりずっと弱々しく、掠れている。救急車のサイレンが聞こえてきたのは、それからすぐだった。
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