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一番邪魔だった響也くんもいない。いよいよ大学入試が始まるから、塾に行ったり模試を受けたりと毎日忙しい。自分は既に推薦で大学に受かっているから何の心配もない。 高校卒業まであと約2ヶ月。早く、彼女を本当の意味で自分のものにしなければいけない。誰にも渡したくない。誰にも。 「和遙さん、また今日も朝霧天磨くんがお見舞いに来てたけど断ってよかったですか?」 「……はい」 「そうですか」 今日は土曜日。朝早くから白桜さんは病室に来てくれていた。丁度今は、白桜さんが持ってきてくれた花を花瓶に移してくれていて、室内にはいない。そんなときに看護師さんが聞きなれた台詞を言った。もうこれで、何度目だろうか。 天磨くんは怪我をした自分をすごく心配してくれているらしい。響也くんや叶貴くん、志龍くんも病院の受付まで来てくれたと聞いた。だけどこの病室に足を踏み入れたことはない。 父が、息子が恐喝されていたのを何も知らずにいて、何もしなかった人間を友人とは思えない。そう言って彼らは追い返されている。これは確かに事実だが、見舞いを断るように指示したのはこの自分だった。 白桜さんと自分だけの場所を彼らに邪魔にされたくなかった。会話が苦手な自分は、2人きりでなければまともな会話が出来ない。他の人間が1人でもいれば、白桜さんとその人ばかりが会話をしているだろう。 退院してから会おうと自分は言っていると必ず看護師さんに伝えてもらって、天磨くん以外はそれ以来来なくなった。だけどちょっとおバカな天磨くんには理解出来なかったようだ。 大学受験をするわけでもない彼は、そのまま親が経営している居酒屋を継ぐ。だから遊ぶ相手もいなくて暇なんだろう。 それでも、許可をするわけにはいかない。彼女を自分のものにするためには、2人きりの時間が必要だから。 「やっぱり、このお花にして正解でした」 「と、とても…綺麗で、ですねっ」 花瓶に花を移し終わった白桜さんが病室に戻ってきた。自分の言葉に、ふわりと綻ぶ笑顔。その笑顔はどこか陰があるよう気がして、彼女の美しさをさらに儚げに見せる。 窓際に飾られた花瓶の中には、艶やかな白と黄色のスイセンが、沈黙していた。 .
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