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ドクンッ
――――あぁ、どうしよう。
ドクンッ
ドクンッ
ドクンッ
ハクちゃんのグレーの瞳が、オレを。
長い睫毛の中から覗く瞳に、オレが。
見てる。ハクちゃんがオレを、見てる。
それだけのことなのに。それだけのことだから。それだけのことが初めてだから。
こんなにも心臓が、うるさい。
喉が乾く。頭が回らない。言おうとしていたことが全部吹っ飛んだ。だって、だって……ハクちゃんが、オレを見てるんだもん。
誰も見ようとしない、そのキレイなグレーがオレを、オレだけを見てるなんて。嬉しすぎて心臓が壊れるかもしれない。
……ダメだ。このままずっと見つめ合っていたいけど、そのためにここに来たんじゃない。話すんだ。言葉を、話すんだ。
「…スメラギ先生なら、来ないよ~」
まず言おうと思っていたことを口にすると。ハクちゃんの目が少しだけ見開いた。グレーの瞳が揺れた。
あぁ、やっぱりハクちゃんもきちんと人間だ。よかった。きちんと感情があるんだ。よかった。
「初めまして、かな~。オレはいつもハクちゃんのこと見てるんだけどねぇ。オレの名前は五十嵐響也。同じクラスなんだけど…分かる~??」
「……」
ゆっくり、近付く。
怯えさせないように。逃げられないように。安心させるために。
「元サッカー部でポジションはフォワード、県大会ベスト4で負けちゃって引退。趣味は漫画読むこととショッピングなんだ~。特技はサッカーとコーラを一気飲みすること、かなぁ」
ハクちゃんのことを知りたいから、まずはオレのことを知ってもらいたい。少しでも多くのことを、知ってほしい。
「好きな女の子のタイプは~真っ直ぐで正直な子。うるさい子とかギャルは無理~。将来の夢は公務員で、安定した生活がいいよねぇ」
ハクちゃんの顔色を伺う。さっき一瞬だけ揺れた瞳は動かず、表情も動こうとしない。それでもオレを見つめてくれている、今はそれだけでいい。
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