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それからオレはひたすらどうでもいいことを話し続けた。ハクちゃんからしたら、突然何だこの人って思うだろうけど、少しでもこの空気を柔らかくしたかった。
「それでねぇ、オレの母親、韓流が好きでよく韓国に友達と旅行行くんだけど~毎回お土産がひどくってさぁ……」
1人話し続けてどのくらいたっただろう。興味を持っていないのか、無表情でオレの後ろにあるドアを見つめるハクちゃん。
もうこれは早く本題に入らないといけないかもしれない。あまり、いい空気になるとは思えないんだけど。
「……まぁ、世間話はこのくらいにしとこっか~。本題、なんだけどねぇ」
声のトーンをわざと落とす。ハクちゃんがどんな反応をするか見たかったから。案の定、何も変わらない無表情。
それはもう、本当にそこにいるだけのフランス人形なんじゃないかと思わせるくらいに。
次の言葉を言ったら、ハクちゃんはどんな顔をするんだろう。
変わらずに、無表情で何も言わないかもしれない。
だとしてもオレは、ハクちゃんの声が聞けるなら……駆け引きだって簡単にやってやる。
「…全校集会があった時、さぁ。ハクちゃん、担任のスメラギ先生と教室で……スゴいこと、してたよね~??」
そう言いながら、口角を上げた瞬間。
ハクちゃんの大きくてキレイな目が大きく見開き、可愛いのに色気漂う唇に僅かな隙間が出来て。
全く動こうとしなかったハクちゃんの身体が、後ろに大きく下がった。
オレも、目を見開く。
ハクちゃんも、目を見開く。
初めて見る、ハクちゃんの無表情以外の顔。それは、動揺。驚愕。焦燥。
こんな顔をするほどのことを、スメラギとハクちゃんは教室でしていたのか。だとしたら、それを見ていたトッキーが上の空になるほどに衝撃を与えたことと辻褄が合う。
それほどまでの衝撃を与える、こと。トッキーがハクちゃんの声を聞いて、その内容を詳しく話したがらなかった、こと。
可能性として上がったのは、オレの中で1つ。
信じたくない。これで、オレが言った後に怪訝な表情をしてくれたらいい。オレのただの思い込みだと、思わせてほしい。
きっと、違う。あり得ない。だから。
「スメラギ先生と……肉体関係が、あったんだ…ね~」
確かめる。
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