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辿り着いたのは、いつもの校長室。
もう歩けるよと言う白桜ちゃんを丸め込んで、抱き抱えたまま校長室の扉を器用に開けて中に入れば。
「……唯弥、天使をありがとう。私はまだ仕事があるから、彩人が来たら先に帰ってていいよ」
無駄に色気を放つ唇の下のホクロが鬱陶しい。190㎝もある“校長先生”を見上げれば僕のことは目にもくれず、白桜ちゃんの唇を塞いだ。
目の前で好きな人に触れられて許せる訳もなく、僕はわざと一歩後ろに下がり、白桜ちゃんと彼を引き離した。
「…私の天使、帰ったらゆっくり話そう」
白桜ちゃんの頬を一撫でした後、荷物を持ち校長室を出ていった。
ふぅ、と短く息を吐いて座り心地のいい黒い革のソファーに白桜ちゃんを抱いたまま腰を沈める。
頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を閉じて僕の胸に頭を預ける。
空いている方の手は白桜ちゃんの小さくしなやかな手に指を絡めてしっかりと握った。
「……唯弥くん」
「なーにっ?」
「私…そろそろ、逃げるのをやめないといけない、よね…」
何から逃げるのか、聞かなくても分かる僕はその言葉の意味に白桜ちゃんの頭を撫でていた手を止める。
漠然とした不安と共に思い浮かんだのは、グリーンの瞳のチャラ男。
「……五十嵐先輩と話したから、そう思ったの??」
「うん…それもあるんだけどね。やっぱり……このままじゃいけないって分かってるの。早く前に進まないとって」
「そんなに焦らなくていいんじゃないかな?また信じた人が壊れるのをもう二度と見たくないでしょ??日本人は外国人よりも繊細で真面目だから…確率は高くなるんだよ??」
「そう、だよね……」
あのチャラ男め、一体白桜ちゃんに何を吹き込んだんだ。余計なことしやがって。
白桜ちゃんは僕たちという、狭い世界の中で笑っていればいい。出来れば、僕以外の人間なんて、見なければいい。
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