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城戸和遥side それは、あの人が転校してきてすぐの頃。 家から塾への通り道、高速道路の下にある小さな公園は、世界の終わりを何度となく照らしてきたような水銀灯が1本、真ん中に立っている。 その日も週に3日のうちの1日で塾の帰り道のことだった。 水銀灯の無個性な光が、ぶらんこや滑り台や砂場や、鍵のかかった公衆便所を照らし出しているだけの、夜の公園。 無人の滑り台は氷河期に死滅した大型動物の骨格のように見える。 見慣れた風景はいつものことで、冬が濃くなりつつある冷たい空気を肌で感じながら通り過ぎようとした時。 水銀灯の光が揺れて、ふと公園の中を見た。 そこには、自分と同じ高校の女子生徒の制服を来た白金の髪が水銀灯のせいか、白髪のように見える人物がいて。 一瞬、雪女でもいるのかと必要以上に瞬きを繰り返すと、はっきりと見える最近転校してきて今では毎日注目の的になっている、“歩くフランス人形”の玖珂白桜さん。 こんなところでこんな時間に一体何をしているんだろうと目を凝らして観察してみると、玖珂白桜さんの腕の中に白くてふわふわした、動いているものが見えた。 自分のほうには背中を向けているから玖珂白桜さんの顔は見えないけれど、大事そうに抱きしめているのが分かる。 驚かせないように静かに公園の敷地内に足を踏み入れて近付いて行くと、玖珂白桜さんのものとだと思われる声が、聞こえてきた。 「寒かったね……もう大丈夫、私が飼い主を見つけてあげるからね」 半分夢のような、耳の底で優しく囁かれているような声。 玖珂白桜さんの腕の中にいる白くてふわふわしたものは、きっと目を瞑って柔らかに抱かれているんだろう。 そしてその腕の中にいるものは、玖珂白桜さんの肩から飛び出た2つの長い耳からうさぎだと分かった。 .
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