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誰とも話さないことで忽ち学校中の有名になった玖珂白桜さんの声を、聞いてしまったことに気付いたのは、家に帰ってからだった。 声をかけようかとも思ったけどあれからすぐに玖珂白桜さんは自分がいた入り口とは反対側にある入り口から足早に出ていった。 どうしてあんな人気のない夜の公園にいたのか、気になったけれど聞くことも出来ないまま。 次の日、いつもなら廊下から隣のクラスを覗く野次馬にはならない自分だけど、前日のことが頭から離れず野次馬に紛れて隣のクラスを見てみると。 やっぱりいつもと変わらず、机に頭を預けて眠る姿だけだった。 玖珂白桜さんの声を聞いたのはもしかしたら生徒の中で自分が初めてかもしれないと思ったけど、誰かに話すことはしなかった。 話すとしても家が隣で中学時代に初めて出来た友達の天磨くんしかいないけれど。 その天磨くんは野球部で冬の追い込みと言う部活の練習ばかりだったし、自分も2学期の期末考査が近かったから塾や図書館での勉強を増やした。 そうしているうちに話す機会を逃してしまって、今も誰にも言えず自分の心の中だけに留まっている。 たまに、塾の帰りにあの公園を覗いてみるけれど、あの日以来そこで玖珂白桜さんを見ることはなかった。 学校でも、学年が上がりグラス替えがあったから玖珂白桜さんと同じクラスになれる期待をしたけれどそれは叶わず。 今年も、たまに天磨くんと叶貴くんや響也くんに会うために隣のクラスにお邪魔する時にちらっと見えるだけで。 目も合わせたこともなければ、顔をしっかり見たのも片手で数えるくらいだ。 やっぱりあの日、早く声をかけていれば何かが変わっていたのかもしれないと少し残念に思いながら高校3年の夏を迎えていた。 .
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