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響也が向けている視線の方向にはちらりともせずに、俺は横にかけてあった鞄をバサリと机の上に置く。 教科書やノートを無造作に詰め込み、まだ玖珂白桜を見つめている響也の足を蹴れば、いでっと叫びながら響也は俺を見下ろした。 「ちょっと何すんの~」 「もうHR始まんだろ。さっさと自分の席戻れよ」 「だってこっちまで来ないと中々ハクちゃんの姿を近くで見れないんだも~ん」 「キモい。帰れ」 「まだ担任来ないって~。来たら戻れば問題ナッシング~」 「古いわ」 バカバカしい。こいつの脳みそは一体どんな作りをしているんだと思いながら盛大なため息を見せつけるように吐いた。 玖珂白桜を見つめるのはどうやら響也だけではないらしく、周りの席の奴ら男女共に後ろを見ながらヒソヒソと話している。 そんないつもの光景に見慣れてきたとは言ってもあまりいい気がしないのは、俺が玖珂白桜を嫌っているから。 嫌っていると言っても彼女に何かされたというわけではなく、ただあの誰も近付けさせないオーラと金持ちってだけで得して楽してるのが許せないだけなんだけど。 「今日も喋らないのかな~」 「そんなに喋りたいなら話しかけてくればいいだろ」 「え~だって120%無視されるし~、オレそんなにハート強くないの~」 「どうでもいいわ」 話しかけて無視される確率は120%どころじゃない。地球がひっくり返ってもありえないと言っても過言ではないほどに。 去年の11月に転校してきてから今の今まで、玖珂白桜の声を聞いた人は1人もいないらしい。本当かどうかは分からないけど。 現に俺自身も彼女が話しているところは見たことがないし、声を聞いたこともないから普通では嘘だろと思うことなのに、信憑性がある。 話しかけても誰一人として相手にしてもらえず。それどころか、人が目の前に立っていてもそこにいないかのように視線を向けない。 そのフランス人形のような顔にはいつも無表情を張り付けていて、何を考えているかさっぱり分からない。 .
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