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今までなら響也が誰か特定の女を気にしていたとしても、俺は特に興味を示さなかっただろう。響也の気になる女が、誰であっても。
……玖珂白桜、以外なら。
「…オレさ、マジでハクちゃんのこと大切なんだよね。好きかって聞かれたらめちゃくちゃ好きだし愛してるって答える。だから……」
ふざけた話し方でも、ヘラヘラした笑顔でもない。いかに真剣かってことがひしひしと伝わってくる。
昇降口にたどり着き、靴を取り出そうとした俺に向き直った響也は。
「だから~トッキーはハクちゃんのこと、好きにならないでねぇ」
突然いつもの調子に戻って、牽制してきた。ふざけてるのか本気なのか分かりづらい、ヘラヘラとした笑顔。さっきまでの雰囲気とは似ても似つかない。
それが逆に、怖かった。友情を取るか、恋愛を取るか天秤にかけるようで。響也は既に、気付いている。女嫌いだったはずの俺が。
玖珂白桜を、気にしていることに。
好きかと聞かれたら分からないと迷わず答える。何より、好きになっていないことを俺自身も心から願っているし。
まだ好きじゃないなら、これ以上関わらなければいいだけのこと。……それなのに、俺は今から玖珂白桜の話を聞きに行く。
「……天磨と和遥が言ってた、聖瑛って奴…俺が教室で玖珂白桜と皇が…話していたのを聞いてたときに一度出た名前なんだ」
「…へぇ~」
「皇とその聖瑛とか言う奴の関係もお前は知ってるんだろ。だからそれを聞くためだけに俺は行くんだ」
「……ふぅん」
「それだけ、だから…深い意味はない」
信じていないような目。分かってる、俺だって。ただの言い訳にしか聞こえないってことくらい。
今は言い訳でも、これから必ず真実にしてみせる。絶対に、好きになんてならない。
俺は、絶対に玖珂白桜を好きにならない。
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