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龍太郎は得意げな腕組みを、次の瞬間ふりほどかれたので、あんぐりと己の友人を見やった。
ところが彗自身も何かに驚いているような、そんな双眸の光ですがりつかれている気がして、龍太郎は目が離せない。
ヘアピンで止められた彗の前髪が一房落ちた。
とっさに掴まれた両腕をつかみ返す。
「な、なした?彗」
「いや…今の…、なまえ…」
「星村さん?知ってんの?」
「あ、いや、やっぱそうでもなかった」
一瞬動揺したかに思えた彗の手から解放された龍太郎は、行き場のない腕を彷徨わせたが身近な女子の手をとることにした。
彗はもう後ろを見ない。
彼に駆け寄る女の子のなびく髪を目で追いながら、少し残った違和感が胸をざわめかせる。
普段通りに笑っている彗に、龍太郎は声をかけないでいた。
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