第1章 時のおとずれ

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放課後は毎日が戦場だ。 松浦静流(まつうら しずる)は頭の高い位置できつく一つに束ねた髪を揺らしながら、焦れったいながらも人を避けて廊下を大股に横切る。 表情は緊張で強張り、不揃いな前髪で隠れた眉間には深いしわが刻まれていたが、化粧気のない顔が年相応さを残している。 それでも昇降口が近づくと、待ちきれないと駆け足で下駄箱を目指し、カバンにつけたキーホルダーが音を立てた。 その背を凛とした声が追いかける。 「静流っ!」 後を追ってきた人物は握った拳を突き出しながら、開くタイミングを考えあぐねているように眉を潜めたが、結局そばまで駆け寄って手の平の中の物を差し出した。 「これ。今日はキューキューの日でしょ。使って」 「やば、忘れてた! ありがと、月子」 柴田月子(しばた つきこ)は切れ長の瞳を得意げに細め、力強く微笑んだ。
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