コントラストメランコリー

第１章 時のおとずれ

「ホシ子！がんばって！」

話しかけられた事が意外とでも言うようにわずかに目を見開いた彼女だったが、「先輩…」と呟いただけで、軽く頭を下げて走り去った。

「アイ？今の誰～？」

不思議そうに尋ねた隣の友人に、声をかけた本人は後輩のくせに立ち止まって挨拶すらまともに出来ないのかと気分を害した風でもなく、機嫌良く答えた。

「〝ホシ子〟だよ。あの、高校生で主婦してるっていう噂の」

「…ああ！」

一部の女子がかすかに騒ついたのを感じ、先頭を歩く彗は首をかしげる。

「なぁに～？なんの話～？」

「あーホシ子の話をしてたんだけど、彗にとっては関係ない話だよ～」

「ホシ子…？」と眉をひそめた彗を、取り巻きの女子達が微笑ましく見守る。

龍太郎も彼女達と同じ気持ちで、彗の頭を軽く小突いた。