第八話【傷跡、そして新たな傷】

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マンションの下で呼吸を整える。 しばらくそこに突っ立って、噴き出した汗が完全に引いてから、私は母の待つ家へと帰った。 玄関に入ると、見慣れない女物の靴が置かれている。 ーーお客さん? 母が誰かをうちに連れて来ることはほとんどなかったが、さほど気に留めなかった。 疲れきっていて、余裕がなかったんだ。 いつも通り 「ただいま」 と言って靴を脱ぐ。 痛みが走った。 きっと踵の皮は捲れて、指先には何箇所か水ぶくれが出来ているだろう。 でも、それで良い。 すると、リビングの方から足早な音が聞こえてきた。 私はその場に静止した。 心臓が脈打つ。 母は私が帰ってきたからといって、玄関まで駆け寄って来ることはしない。 ――怒っている時以外は。 ずっと居座っていた悲しみや苦しい気持ちが一気に消し飛んで、恐怖だけが私を支配した。
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