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未来時計
「カチ、カチ…。」
乾いた音を立てて未来時計の秒針が現在よりも、ほんの先の
未来の時間を指し示していた。
私はこの未来時計の時間が狂わないように、常に見張っているのが仕事だった。
本業は写真家なのだが、写真の仕事だけではなかなか食べていくのが厳しく
夕方の十七時から二十二時まではアルバイトとしてこの仕事をしていた。
この仕事の良いところは大変暇であるという点であった。
私は毎晩この部屋へこもり、昼間に撮影した写真を整理しながら
未来時計に狂いがないか見張っていた。
見張ると言っても、じっと見つめている訳でもなく、
一時間に一回程度、ちらりと未来時計に目を向ける程度であった。
しかし、今夜に限ってはいつもと違った夜になりそうだった。
どうも一週間くらい前から未来時計の時間が少しずつずれ始めていて、
そのことをここの雇い主に話をしたところ、今晩未来時計の整備技師が
ここへ修理にやって来ることになっていた。
雇い主の話によると、未来時計が早く進みすぎると今起こっている
社会とのバランスに歪みが生じるとのことだ。
私はこの仕事を始める前の最終面接の時に一度だけ「歪みって、例えばどんな
風なことが起こるのですか?」と聞いたことがあったが、その時の答えは
曖昧なもので、例えば集中豪雨が発生したり、晴れているのに突然空から
ヒョウが降ってきたり、長年研究を続けていた科学者が突然、超自然界の謎を
解明したりと、どの説明もとってつけたような説明だった。
まあ、その時は目の前の面接に合格すれば良かったので、私はとりあえず愛想良く
「そうですか。それは大変な仕事ですね。」と適当に相づちを打っていた。
私は写真の整理が一段落するとカチカチと音を立てている未来時計を見上げた。
いつもであればこの未来時計は現在よりも十分先の時刻を刻むことになっているのだが、
この一週間少しずつ時刻にずれが生じており、今ではその差が十二分になっていた。
私もすぐに気がつけば良かったのだが、たった二分の違いである。
それにこのアルバイトを始めて二週間、時間がずれたことがなかった、
正直に言えば私が気がつかなかったこともあって、すっかり油断をしていたのである。
時間のずれに気がついたのは三日程前で、それに気がついておそるおそる雇い主に
連絡をするとその時はまだ一分半くらいのずれだったので、それ程怒られず
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