「はじめて」の色

6/26
前へ
/28ページ
次へ
――『紅花、蒼葉、おばあちゃんがクマのぬいぐるみをくれたわよ。紅花と蒼葉にって』 『紅、ピンクのくまがいい!絶対ピンク!』  双子という強力なライバルに打ち勝つ技。  それはそんな大層なものじゃない。  つまりはこう。  相手より先に自分の欲しいものを主張する。  そうすると、蒼葉は大体後から遠慮がちに言う。 『じゃあ、蒼葉は水色にする……』  それを見てあたしは密かにほくそ笑む。  これで、欲しいものはあたしのものになる。  蒼葉は昔からそうだった。  あたしが欲しいものを取ったあとで、余ったもう片方を取る。  だからあたしたちは今まで一度も、ものの取り合いをしたことはない。  大事そうに水色のくまを抱え込む蒼葉。  勝ち取ったピンクのくまを満足げに見つめるあたし。  なのに、蒼葉を見てると段々水色のくまが、ピンクのくまより可愛く思えてきて……。  そういえば、水色がいいと言った蒼葉は、全然悔しそうな顔をしなかったとふと思い出す。  蒼葉はあたしの残り物を取ったんじゃなくて、きっと最初から水色の方がいいって思ってたんだ。  なのにあたしは、二つのテディベアをちゃんと見比べもせず、ピンクの方がいいって決めつけた。  もっとよく考えて選べばよかった。  そうやって、結局いつも後悔する。  それは中学生になった今でも全然変わってない。  あたしのこの悪い癖は、なかなか直りそうにない……。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加