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――次の日の朝。
「汐崎のおばさん、おはようございます!」
「はーい、あ、尊くん、おはよう。紅花!尊くん迎えに来たわよ?」
「今行く!」
尊というのは、隣に住んでる茎本尊(くきもと たける)っていう同級生。
いわゆる幼なじみ。
小さい頃からの付き合いという事もあって、あたしにとっては、女子も含めても数少ない腹を割って話せる相手の一人。
まあ、三人目の双子みたいなものだ。
どうして尊があたし“だけ”を迎えに来たかっていうと、それはあたしたちが同じ部活だからだ。
最近は中体連が近いということもあって、毎日のように朝練がある。
尊は朝が弱いあたしを心配して、こうして毎日迎えに来てくれる、という訳だ。
「ねえ尊、聞いてよ」
「何、紅花?」
「あたしねえ、彼氏できたの!」
「は……?」
尊は一瞬固まった。
「あれ?尊ー?」
「……そ、そうなんだ。良かったね、紅花」
「え、そんなにびっくりした?」
「え、いや、うん。びっくりしたよ」
慌てて取り繕うかのように言う尊。
蒼葉といい、尊といい、何なんだろう?
この反応。
「あ、さてはあたしのこと見限ってたな?あたしに彼氏なんか出来る訳ないって」
そう追い討ちをかけると、尊は突然真面目な顔をした。
「そんな事ないよ。だって紅花は性格も明るいし、可愛いしね」
尊……あたしの事、そんな風に思ってたなんて……。
なんて、あたしが思う訳もなく。
「……とか言っちゃって、やだねえ、このナンパ男!」
あたしは尊の背中のリュックを思いっきりバシッと叩いた。
「いや、本当だってば」
尊が本気で言っているのは知ってる。
だってこいつは昔から、女子を勘違いさせる天才なのだ。
その口から発せられるストレートな言葉に惑わされた女の子たちが、一体今までに何人泣かされてきた事か。
それでも尊はあたしにとって、良き親友であり、理解者であり、そして蒼葉とは違う意味での良いライバルだった。
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