「はじめて」の色

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 あたしたちは陸上部で、同じ短距離の選手だ。  小学校から競い合うかのように続けてきた陸上。  おかげであたしの肌は年中こんがり小麦色。いや、黒糖色くらいには焼けてしまっているけど……。  それでもあたしにとって陸上は本気で打ち込める、唯一無二のもの。 ――短い時間の中で、自分の持つすべての力を凝縮する。  そんな短距離走があたしは大好きだ。  色々やるけど、一番好きなのは、100メートル走。  あの、心が無になる感覚。  余計な事は何一つ考えない。  もっと速く。  もっと速く。  ただ100メートルの間、目の前の地面を蹴る事に集中する。  体が真正面から受ける空気の重さ。  耳元を唸るように鋭く切る風。  全てが好きで仕方ない。  気が付くとゴールラインなんてあっという間に過ぎていて、残るのは心地よい全身の疲れだけ……。  もっと長い距離だと、そうはいかない。  色々な雑念が頭に浮かんで、あたしが走るのを邪魔する。  だから、100メートルっていう長さが、あたしには一番合っていると思う。  でも、ここまで続けてこれたのにはやっぱり競い合う仲間がいたからかもしれない。  そういう意味では、尊には感謝してる。 ――「というか先輩、なんであたしが先輩の事好きって知ってたんだろう……」  ふと疑問に思い、あたしはぽつりとそう口にした。 「裕太じゃねえの?」  尊がさらっと答える。  裕太というのは、同じクラスでサッカー部の男子。  そして、森山先輩と同じ部活。 「は?なんで裕太が……?」  尊は呆れたような顔をした。 「そりゃ、教室であんだけ大きな声で話してたら、誰にでも聞こえるだろ……」 「あ……」
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