約束の世界から

6/8
前へ
/10ページ
次へ
 この川の向こうに、愛しい人が待っているなら泳ぐだろ、と村橋武は着ていた浴衣を脱ぎ捨て、星々のまたたく美しい川へ飛び込んだ。  その水音に気づいた浦上将志は、今日が一年に一日だけ流れがゆるやかになる日だと思い出す。 「武さん、危ないからやめて下さい!」  それでも、勢いを止めずにクロールしてくる武に、将志は青い浴衣のまま川へ入った。  すぐに深くなってしまい、本能的に足をとめる。  そこへ、息を乱した武が到着し、抱きしめてくる。 「あ……」 「……一年ぶり。やっと会えた」  星がひとつ、濡れた武の髪に引っかかってきらめいている。  川を流れる星たちも、いつも以上に綺麗で、それに気づいた武が拾い集め、俺の上から降らせた。 「綺麗だ」 「……はい、とても。胸が苦しいくらい」  半裸のあなたが、とは言えずに、将志は武の髪についていた星に手をのばす。  パシッ、とその手首を掴まれ、いきなりの強引なキスをくれる。  息ができない、と抗議して武の胸を軽く叩く。 「離して……下さい」 「それは無理」  もう一度のキスに息が続かず、かくんと膝が折れた俺を、武さんが支えてくれる。 「……お願い」 「聞くよ、何でも」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加