始まりはある日突然に、というものですよね

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********** ―【前世占い・マルリス】の店― 結衣と伊知乃を見送ったマルリスは、扉にかかっていた店名の書かれたプレートを外して、店内へ戻った。 そして、占いを行っていた机に向かい、水晶玉を前にして座る。 「クッ、クククク…」 マルリスの口から、不敵な笑みが溢れた。 「エリン様」 薄暗いカーテンの影から、何者かが陽炎のように姿を現す。 その陽炎が一歩踏み出すと、それは実体となって、床に敷かれている絨毯を踏みしめた。 「ザルグか」 「はい」 ザルグと呼ばれたその人物は、中肉で背は高く、短く黒い髪を7:3にきっちりと分けて撫で付け、死人のように青白い肌で、サングラスをかけて黒いスーツを着ているので、怖い団体か葬儀屋に所属していそうな出で立ちだ。 ザルグが、マルリスに近付きながら、かけていたサングラスを外すと、そこから覗いたのは、全体が白く濁った灰色の瞳。 顔の彫りは深く、日本人には見えない。 無表情で立っている様子は本物の死人のようで、生きていることを疑いたくなる程だ。 「見ていたか」 「はい」 マルリスに問われて、ザルグは答える。 「世界中どれほど探しても見つからなかったのに、まさかこんな近くにいるとは、やはり前世からの繋がりが成せる業なのか… まあ良い、これで私が今までこの世界で生きてきた、全てが報われるというもの」 マルリスは口の端にニヤリと笑みを浮かべる。 その様子は、先程まで見せていた人の良さそうな占い師の姿からは、想像できないような、邪悪な笑みだった。
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