1752人が本棚に入れています
本棚に追加
**********
―【前世占い・マルリス】の店―
結衣と伊知乃を見送ったマルリスは、扉にかかっていた店名の書かれたプレートを外して、店内へ戻った。
そして、占いを行っていた机に向かい、水晶玉を前にして座る。
「クッ、クククク…」
マルリスの口から、不敵な笑みが溢れた。
「エリン様」
薄暗いカーテンの影から、何者かが陽炎のように姿を現す。
その陽炎が一歩踏み出すと、それは実体となって、床に敷かれている絨毯を踏みしめた。
「ザルグか」
「はい」
ザルグと呼ばれたその人物は、中肉で背は高く、短く黒い髪を7:3にきっちりと分けて撫で付け、死人のように青白い肌で、サングラスをかけて黒いスーツを着ているので、怖い団体か葬儀屋に所属していそうな出で立ちだ。
ザルグが、マルリスに近付きながら、かけていたサングラスを外すと、そこから覗いたのは、全体が白く濁った灰色の瞳。
顔の彫りは深く、日本人には見えない。
無表情で立っている様子は本物の死人のようで、生きていることを疑いたくなる程だ。
「見ていたか」
「はい」
マルリスに問われて、ザルグは答える。
「世界中どれほど探しても見つからなかったのに、まさかこんな近くにいるとは、やはり前世からの繋がりが成せる業なのか…
まあ良い、これで私が今までこの世界で生きてきた、全てが報われるというもの」
マルリスは口の端にニヤリと笑みを浮かべる。
その様子は、先程まで見せていた人の良さそうな占い師の姿からは、想像できないような、邪悪な笑みだった。
最初のコメントを投稿しよう!