1751人が本棚に入れています
本棚に追加
私が食器を洗っていると、ドタドタと竜也の走る音が聞こえてくる。
「俺、今日は泰士(タイシ)と寄り道してくるかも」
竜也はキッチンに顔を出して、私に告げる。
「わかった、行ってらっしゃい」
「行ってくる」
竜也を見送って、二人が出かけた家は、急に静かになった。
竜也は私に反抗しながらも、毎日必ず自分の予定を告げてから出かけていく。
そういう所が、いつも言うことを聞かなくて腹が立つのだが、憎めない。
これがいつもの日常だ。
今日、この日常を覆す出来事が起こるとは、この時は気づいていなかった。
私は時計を見ながら家事を終わらせてから、出かける支度を済ませて、家を出た。
駅に向かって久しぶりの電車に乗り、結衣と待ち合わせた場所へ向かう。
「伊知乃久しぶりー」
待ち合わせ場所である、駅の改札出口前に先に着いた私が、行き交う人々をぼんやりと眺めてしばらくしていると、友人の結衣が小走りでやってきた。
「待った?」
「ううん、さっき来たところだよ」
「そう、じゃあ行こうか」
結衣は早速占い師の所へ向かうために、先に歩き出した。
私も結衣に追いつき、並んで歩く。
「でも本当に占いが好きだよね?
これで何回目になることか…」
「だって、転ばぬ先の杖というか…
何だかワクワクしない?
わからない未来とか、知らない自分の一面とかが、わかっちゃうんだよ!」
結衣は力いっぱい、私に反論する。
最初のコメントを投稿しよう!