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「何?緊張してるの?
大丈夫だよー」
動悸が起きる意味がわからない私は、渋い顔をしていたのだと思うが、勘違いした結衣が慰めてくれた。
「あ、ありがとう…」
今の状態を説明できそうにないので、取りあえず話を合わせる。
マルリス…
頭の中でつぶやいただけで、変な悪寒が全身を駆け巡った。
そして手まで震えてくる。
さすがに自分自身がおかしいと感じる。
私は手の震えを隠すために、ぎゅっと力を込めて拳を握った。
何だか中に入りたくない気分になってきた。
私の気持ちは占いどころではない。
せっかく来たけれど、私は遠慮させてもらうことにしよう。
そう決意して、私は口を開く。
「ねえ、結衣」
「あ」
結衣が扉を開こうとする前に、ガチャリと音がして扉が開いた。
「ありがとうございました~」
開いた扉から、先客と思われる人が出てきた。
その後から、いかにも占い師、という感じの、黒いゆったりとしたフード付きのローブを身に付け、神秘的な雰囲気のメイクをした女性がついて出てきた。
メイクも上手いと思うが、なかなかの美人だ。
年齢はよくわからないが、この人が間違いなくここの店主だろう。
「またどうぞ」
黒ローブの占い師は、出ていく客に声をかけ、見送った。
そして、私たちに目を向ける。
「次のご予約の方ですね?
中へどうぞ」
「はい。
伊知乃、行こう」
結衣に促されて帰るタイミングを逃し、流されて私は中へ入ってしまった。
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