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「違うよ」
私のと響きも高低もよく似た、いや、寸分違わぬその声で我に返った。
「違わなくないだろう?」
「違うよ」
「確かに服の色は違うけど」
「ああ。けどそれだけじゃない。全く違う。私は君じゃなく、君は私じゃない」
「本当に?」
「本当だよ」
「……本当、に……?」
すると彼は口の端をほんの少しだけ上げて皮肉とも虚無ともつきかねる暗い笑みを浮かべ、黙ったまま、ズボンの空洞を指で示した。
私は彼の足を見て、それから自分の足を見て。そしてやっと理解した。
私の足は二本あるが、彼のは一本。確かに私たちは違っている。私と彼は同じ顔をしている。同じ体つきをしている。体には同じ色、同じ組成の血液が流れている。その意味では同じだ。しかし私は彼そのものではない。イコールでは結べないのだと。
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