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「足がないなら、飛べば良い――」
リヴァルシィの駒がひっくり返るような音と共にふっと思いついたこと、それが独りでに私の口から出て。すると別な方向でまた音がした。
ぱた、ぱたり――
音のした方を見ると、彼がいた。瞬きをやめて見開いた目、その瞳はきらきらと輝いて。生命の息吹を、新たな世界の始まりを私はそこに見る。
と、その彼の背中に純白の翼が生えてきた。ばきばきばき、という音を立てて、コンクリを破って伸びる芽のように。
彼は、手すりを支えによろめきながら一本足で立ち上がると、ばさりと翼を前後に動かした。それから、手すりの上面をぐっと押し下げるようにして飛び上がり、上半身から滑り落ちるようにしてその外へ。
真っ逆さまに落ちかけた次の刹那、巣立つ雛鳥のようにぎこちないながらも、翼が力強く羽ばたきを始めた。それで体勢を立て直す。
そのまま彼は、少しふらつきながら飛び去った。大学の尖塔の向こうへと。
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