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自らが死体であるということは、悲しむべきことなのだろう。薄ぼんやりした記憶の底に、そう思うべきだという感覚がある。しかし、晨には悲しみの感情がどうにも湧いてこなかった。
自分を殺した相手に対する憤りや恨みも然り。
全て他人事のようで、何の感情も湧かないのだ。作り事を端から見ているかのような錯覚さえ覚える。
先程見た空を飛ぶ夢、そちらで感じた高揚や衝動の方が余程現実的で。特にその高揚の余韻が、じぃんと体に染み入るように今も。
――もう一度飛びたい。永遠に、空に在りたい。あの自由な空に……。
晨は強くそう思った。しかし思ったところで悲しいかな、その身は水底の死体である。その蒼が、光が、手に取れるものであるようにはっきりと見えてはいても、空は遠い。遠いのだ。水面にすら届かないのだから、空などとても。
晨は再び目を閉じた。目を閉じれば、再び同じ夢が見られるような気がして――
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