8人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれ落ちた時、その誕生を、腹を痛めた母よりも喜んだのは父だったという。彼は喜びにうち震えながら生まれたての娘を抱き、頬を寄せ、感極まって涙を流したそうだ。自分を取り上げた産婆が、何かの折に訪ねてきた際、そう語っていた。
その場にいた父は、気恥ずかしくなったのであろうか、耳を赤くして産婆から目を逸らすと、
「旭さん、旭さん。散歩に行こうか」
そう言って、よいしょ、と旭を抱き上げ、そそくさと退出した。
旭は、じっ、とその彼の顔を見つめてみた。すると彼は、すぐったそうに笑った。そして、旭をぎゅ、と、壊れやすい宝物を胸に抱くように丁寧に、しかししっかりと抱き直した。
その抱き方、手つきは、旭をひどく安心させて。
安心すると、眠気が降りる。
それに従い目を閉じると、父はぽん、ぽん、と掌でその背を叩いた。
じわりと温かい、その手で。
最初のコメントを投稿しよう!