旭と晨

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 生まれ落ちた時、その誕生を、腹を痛めた母よりも喜んだのは父だったという。彼は喜びにうち震えながら生まれたての娘を抱き、頬を寄せ、感極まって涙を流したそうだ。自分を取り上げた産婆が、何かの折に訪ねてきた際、そう語っていた。  その場にいた父は、気恥ずかしくなったのであろうか、耳を赤くして産婆から目を逸らすと、 「旭さん、旭さん。散歩に行こうか」 そう言って、よいしょ、と旭を抱き上げ、そそくさと退出した。  旭は、じっ、とその彼の顔を見つめてみた。すると彼は、すぐったそうに笑った。そして、旭をぎゅ、と、壊れやすい宝物を胸に抱くように丁寧に、しかししっかりと抱き直した。  その抱き方、手つきは、旭をひどく安心させて。  安心すると、眠気が降りる。 それに従い目を閉じると、父はぽん、ぽん、と掌でその背を叩いた。  じわりと温かい、その手で。
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