8人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、緩やかな風が吹く。父は娘を膝に座らせて抱え、抱えられたその赤子の目は遠く、蒼い蒼い空を見る。
旭は晨ではない。だが晨の見たあの夢は、旭にとっても現実的で。飛翔の余韻は、未だにじぃんと体の奥に。
しかし、だ。
旭は晨のように、もう一度飛びたいとは思わない。空の蒼と白い雲は美しく、風は心地好く。けれどそれらより、父の大きく頼もしい手を、膝の温もりを選びたい、そのために地上に在りたい、と旭は思う。
旭は晨、晨は旭だ。しかしイコールでは結べない。旭は旭の望みを持ち、それは晨の望みではない。
旭は思う。
私は私、晨は晨なのだ、と。
それにしても、あの夢の中、晨の見たあの少年は誰だったのだろう?
ふと気になって思い返してみたが、やはり誰のものだかわからない。現実的ではっきりした夢の中で、そこだけ薄ぼけてわからない。
まぁ、いいか。
うとうとと眠くなってきて、旭はそっと目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!