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「ああ、だめだよ、むやみやたらと動いては。倒れてしまうだろう?」
見れば、彼の指先につままれているのは、ドミノ倒しの駒だった。潰れた苺のように鮮烈な赤の。
振り向いた先、私の踵の後ろで倒れているのは、心に深く刻み込まれた哀しみのような青いドミノ。
その先には、母を亡くした子がその墓前に手向ける花のような白をしたドミノ。
その周りにまた苺の赤。
その向こう側には、道化師の笑い声のような、愉快に弾ける黄色。
金平糖はどこへ行ったのだろうか――
ぼんやり考えているとまた彼が口を開く。
「還ったんだよ。もうみんな」
遠い空を見るその顔はどこか寂しげで、つられて寂しくなる。
「……君は、還らないのかい?」
そう訊くと彼は、少し困ったように微笑んだ。
「還れるものならもうとっくに」
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