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今どき小学生でも恋話に興じる。
でも僕は『アイ』を知らない。
誰かが恋しいと思った事はないし、愛してるという言葉の意味が分からない。誰かに愛されていると思った事もなければ、愛されたいと思った事もない。
だからとても不思議なのだ。
色恋沙汰に興じ、愛を語るクラスメート達が。
「お前は誰か気になる子とかいるの?」
そんな質問をされたら、愛想笑いをしながら「いないって」と誤魔化す。上手く笑えてはいるみたいで、誰もが「だろうなぁ」と笑って流す。でも、内心は穏やかじゃない。
それぞれが気になる子の名前をあげるのを聞いて少し焦る。
僕は異常なのではないか、と。
そんな不安を胸に抱きながら送る高校生活も二年目。
僕は今日も『アイ』を知らない。
しかし、僕は今日、知った。
本は昔から好きだった。彼らはよく『アイ』を語る。
もしかしたら、と本の中に答えを捜す。当然今まで見つかった事などなかったけれど、それでも期待して僕は今日も図書室にふらりと足を運んだ。
目的の本がある訳ではないが、小説を目当てに適当に棚を捜す。
それがいつもの事だったが、今日はふと、席について本を読んでいる先客の手元に目が行った。
『愛のかたち 下 著: 大野 のの』
まずはタイトルに目が引かれる。如何にも僕が捜していたような、そんなタイトル。どうして今までその存在に気付かなかったのか。
先客が開いた本の表紙の中央には歪なハートマークが書かれていた。見るからに不格好だと分かるそれは、まるで愛とはそうやって歪んだものだと言いたげな雰囲気さえ感じられた。
先客の手元を見ると、ページのかなり後ろの方にしおりが挟まれた上巻が置かれている。そちらにも同じように、歪なハートマークが表紙に書かれている。
気になる。
僕は先客の顔をそこで初めて窺う。
知っている顔だった。クラスメートの女子、『鳴瀬(ならせ)』だ。詳しくは知らないが、目立たない女子だという事は分かる。
切りそろえた前髪から覘く目が、ちらりとこちらを見た。
何? と言いたげな目で一瞥すると、鳴瀬はすぐに本に意識を戻した。
「あの」
どうしても本が気になった。彼女が読んでいるのは下巻、手元にある上巻を貸しては貰えないか。
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