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今日この家に来たわけは、別に約束があったからではない。
昨日のヤツの雰囲気を思い出し、居ても立ってもいられなくなった結果なのだ。
靴を脱いでリビングに。電気も消さずに出て行ってしまったからか、まるで誰かがいるかのように未だ人の気配がある。
通いなれた部屋の中、ヤツの部屋の前で深呼吸をした。確か、『ボクの好きな人へ』とかいうフォルダだったか――頭の中で思い出しながら、パソコンの前に立った。
パスワードもないヤツの愛用パソコンは、クリックだけでデスクトップに出る。
堂々と真ん中に位置してあったフォルダこそが、ヤツの言ったものだった。
中に入っていたのはワードのデータが一つ。きっと、もうすぐ死ぬと思っていたヤツの言葉だ。
少しくらいは素直なことを書いているんだろう――そう思いながら、椅子に座ってワードを開いた。
一文目にあった、なんともアイツらしい言葉に、自然と笑みが溢れる。
――まったく、なんてヤツだ。
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