第1章

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「こんばんは」 街灯の多い夜の街。 くたびれたスーツとくたびれた男。 マフラーを巻いた女子高生。 「こんな時間に女子高生が一人で出歩くもんじゃないよ」 ぬるい缶コーヒー。 「あたしのこと待ってるくせに」 吹く風は冷たい。 「何もしなくてもお金貰えるなんてステキ~」 無駄に少女趣味な部屋。 「おじさんこの部屋似合わないね」 無駄に大きなベッド。 「まだ20代だよ。ていうか君が選んだ部屋でしょ」 けたけた響く笑い声。 「別にエロいことしてもいいんだよ~?他のおじさんたちはみーんなそんなんだしね」 ベッドに寝そべる女子高生。 「俺は君との時間を買ってるの。女子高生なんだから体を大事にしなさいよ」 ただ腰掛ける男。 「おじさんかっこいぃ~」 微かな煙草の匂い。 「お腹、何ヶ月なの」 苦くて甘い匂い。 「……おじさんやっさしぃ~」 大きくて安っぽいベッド。 埋まっていく灰皿。 くたびれたスーツと疲れた顔。 ショートカットと白い肌。 女子高生と膝枕。 流れる時間。 朝の光。 「堕ろすの?」 冷たく澄んだ空気。 「まぁ……誰のか知らないし」 人のいない街。 「あたしの存在って何だろう」 鳥のさえずり。 「俺に安らぐ時間をくれる人」 二つの影。 「……なんかやだ」 手を繋いで歩く時間。 「淋しくなったらいつでもおいで」 少しだけ優しい時間。 「おじさんが淋しいくせに」 微笑みは光に透ける。 「まぁね」 別れの合図。 「コーヒーは温かいのがいい」 繋いだ手は 「わがままだなぁ」 離さなきゃいけない。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加