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あたしがいくら苦しい胸の裡を訴えても、返って来る言葉は、
「大丈夫。あんまり思いつめるなよ」
いつもこんな調子だった。その度、「義之はあたしのことなんか真剣に考えてくれていないんだ」という確信を深めていった。
あたしは、赤ちゃんが欲しかった。ううん、正確に言えば“家族”が欲しかった。違うか。
“血の繋がった家族”と一緒に楽しく暮らす。
それがあたしの“夢”だった。
普通の人ならなんてことのない夢だと思う。事実、いとも容易くそれを手に入れる人の方が、圧倒的に多いはずだ。
でも、あたしにとって、それは途方もない夢だった。
あたしには、完全に血の繋がった家族がいなかった。それを知ったのは十八歳になってからだ。
突然だった。
当時実家暮らしをしていたあたしを訪ねてきたのは「本当の父」を名乗る男の人だった。
なんて間抜けなんだろう。あたしが十八年間父親だと信じて疑わなかった人は、赤の他人だったのだ。
じゃあ、弟とは半分しか血が繋がっていないってことになる。母はあたしが小学校の五年生の時、浮気相手の男と家を出て、それからすぐに脳溢血で亡くなった。直後、あたしを可愛がってくれていた大好きなおばあちゃんも他界してしまう。
でも、この時はまだ耐えられた。なぜなら、家族だと信じていた父と弟がいたからだ。
でも、本当の父が現れたその日、あたしは「一人ぼっち」になったのだ。
いつもあたしは思っていた。この孤独から救われるには、自分で子どもを産むしかない、と。
だから。
「愛している」
義之にそう言ってもらえた日。あたしは天にも昇る気持ちになった。こんなの何人にも言われているけど、義之の言葉には“重み”があった。
義之は、哲学における“愛”と“恋”の違いについても教えてくれた。それをかいつまんで説明すれば「愛とは相手を自分と同化してしまうこと」であるらしい。
「だから俺にはなかなか言えなかったんだ」
そう言ってはにかむ義之に、あたしの心は激しく震えた。義之は、あたしがどんなに醜く変わり果てようと、変わらぬ愛を誓ってくれた。そう思ったら、知らず涙が零れていた。
この人と家族を作れたら――こんなに幸せなことはない!
あたしはそう思っていた。
なのに。
結婚一年目。怖くなるくらい順調に授かった赤ちゃんは、流れて消えた。
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