妖怪プリンババア

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年をとって、老人と呼ばれる年齢になってから動くことがひどくおっくうになった。私の祖父のやっていた駄菓子屋を年とったことを理由に引き受けてからさらにおっくうになる。商品の陳列なんかは息子がやってくれるから、店番としてその場に座り、近所の子供達がお菓子を買っていくついでにいろんな怪談話を話して聞かせる。親御さんには不評だけれど、子供達には好評だった。 もう夏の時期に近づいて来ているし、子供達を集めて怪談話を語って聞かせるのも悪くないし、夏休みになれば近所で夏祭りと肝試しが行われるだろう。ホクホクとしわだらけの口を動かして笑いながら両手を合わせてニギニギと握り合わせる。 日差しを避けるために帽子をかぶり、杖を握って出かける準備、今日は近所に住む小学生の女の子がやってくる、その子は私のプリンを好いているのだけれど、あいにく材料を切らしていた。どうやら女の子は泳ぎが苦手らしく、今日は市民プールの特訓に行くのだと言っていた。きっといっぱい泳いでくたくたに疲れているだろうから美味しいプリンを食べさせてあげようと思い、杖をついて道のすみを歩く。歩道をとぼとぼと歩く私を車が勢いよく通り過ぎていく。 そんなに急いでいるのだろうかなんて思うが、私にはどうすることもできないことだ。ゆっくり、緩慢に歩きながら歩みを進める。あまり急ぎ足だと身体がついてこずその場に座り込んでしまうからゆっくりとした歩調だ。 チリンチリンと自転車のベルが鳴り、私の隣を通り過ぎていった。自転車に乗っている女は部屋に閉じこもり、いわゆる引きこもりというやつらしいと友達の噂話を思い返しながら、自転車はあまり好きになれなかった。乗れはするけれど、若かった頃に衝突事故に遭遇した頃から自転車に限らず、乗り物と呼べるものはなるべく乗らないようにこころがけ、できれば足腰を動かすように動かしていたが、年をとってはそれはごくごく微妙な差だ。急ごうが、急ぐまいがどちらも変わらない。 最近ではなんだか時間の進む時間がひどく早く感じられ、私だけはおいて行かれるような感覚がして、ここで歩みを止めてしまったら私はポックリとお迎えが来るのかもしれない。 後悔と呼べる物はないけれど、できれば息子の子供が無事に成長して、一緒にプリンでも食べればきっと幸せだろうな。 と、夢見がちなことを思う、まだ、幼い孫の顔を思い浮かべれば自然と口元がほころぶ。
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