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「…………いらっしゃい」
店内をキョロキョロと見渡していると、店番の席に若い女の子が頬杖をつきて雑誌をパラパラとページをめくっていた。その表情はあきらかに不機嫌そうで、こちらにいちべつするとすぐに視線を雑誌に戻す。
「店番ですか?」
「そーだよ、なんか悪い?」
「いえいえ、お手伝いして偉いなぁと思いまして」
と目の前に座る女の子の眉間がギュギュと歪み露骨に口を尖らせる。
「んなわけねーじゃん、クソジジイが用事があるって言うから店番してんの、そんなんじゃなかったら彼氏とデート、デートしてたのよ。だいたいクソジジイの用事だなんて競馬か博打に決まってんでしょ」
「でしょうねぇー、競馬と博打が好きでしたからねぇ」
しみじみとした気持ちで口をもごもごと動かして答える。私の祖父は何かにつけては用事だと言って出かけていた。
「なんで、あんたがそんなこと知ってるんだよ。クソジジイの知り合いだったりすんの?」
知り合いというより、クソジジイの孫です、そして、貴女の数十年後の姿ですとは言えなかった。彼女はムグムグと口元を動かして、両手を合わせてニギニギした。年をとってもその癖は変わらないんだなぁと思った。
「そうですね。腐れ縁というやつでしょうか、今日はひさしぶりにこちらに来たので、どれ、プリンでも振る舞ってやろうかと思いましてねぇ。お留守というのならおいとましますよ」
プリンの作り方を教えてくれたのは、亡くなった祖父だった。競馬や博打が好きな人だったけれど、それと同じくらいに子供が好きでよく子ども達混じっては缶蹴りや鬼ごっこ、隠れんぼをする人だったけれど、私がプリンを上手く作れる頃には寝たきりになってしまい、ボックリとお迎えが来てしまった。
年相応というか、思春期だったというか、私は祖父と預けられることが多かったから大きく反抗してしまった。反抗期というやつだ。その頃はそうすることがかっこいいことだと思っていたけれど、今になって思えばヒドいことをしたものだと思う。
自分の時間に後悔はないけれど、それだけは謝りたいと思っていたが、居ないのなら仕方がないし、いきなり押しかけてきてプリンをつくる老婆なんて、それこそ都市伝説になりかねない。
過去へやってきた興奮が少しずつ冷めていく。この時代に来たからと言っても何ができるわけでもない、老骨に鞭を打っても待っているのは骨折だけだ。
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