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素直じゃないなぁと微笑みながら、楽しい時間は過ぎていく。食器を洗い後片付けを済ませると、もう、長居することはできない。後ろ髪を引かれる気持ちもあるけれど、ここで祖父と再会したら泣いてしまいそうだったから、老いた身体を無理に動かし、杖をつく。日差しは暑い。
「ね、ねぇ、またさ。また、プリン作りに来てよ。一緒につくろ」
「そうですね。そのきかいがあればですけれど、もう老婆ですからねぇ」
「何言ってんの。老人だろうが、老婆だろうが、前向きに生きなくちゃダメじゃん。クソジジイなんてあと三十年は生きるに決まってるし、バーさんも長生きできるって。この私が言うんだから間違いない」
若気の至りとはこのことか、目の前でニカッと笑って見せた彼女に私もぎこちないながら笑って答え、そして、
「そうそう、今つきあってる彼氏さん。二股かけてますよ」
と悪戯混じりに言った。え? と、驚く彼女を尻目にして私はさっさと歩く。大丈夫、これから先にもっといい人が見つかるから心の中で呟いて、目の前がピカッと光ってーーーー気がついた時には病院のベッドに寝ていた。見知らぬ男の子が私の顔を覗き込みながらなにやら話しかけてくる。私はそれにあいあいと曖昧な返事をする。どうやら、私はトラックに跳ねられそうになる寸前、うっかり転んで頭を打ったらしいのだ。トラックはそのまま逃走してしまったらしい。
「いい夢、見れました?」
と、見知らぬ男の子の問いかけに、
「はい、よい夢を見させてもらいました」
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