新月

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 営業部の新城琢磨は、夕弥にとって雲の上より遥かに遠い存在だった。  年齢としては二、三歳しか変わらないのに、その仕事ぶりは天と地ほども違う。  伝票や請求書では毎日のように百万単位の金額を目にするが、実際にそのお金を生み出しているのは彼で、実績は億単位になることもある。  あまりの差に溜息さえ出ない。嫉妬するのも烏滸がましい相手。  引き摺られるように階段を下りながら夕弥は新城のいる営業部へと向かった。 「失礼します。あのう新城課長は?」  フロアを見回しても新城の姿がなかったので、夕弥は新城のデスクの傍にいた女性に声をかけた。 「課長はたった今……あ」 「あぁっ!」  振り返った女を見て、夕弥は度肝を抜かれた。
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