新月

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 走れるだけ走って、慌てて家に帰ると夕弥は突然吐き気に襲われた。洗面所の水を勢いよく出すと空嘔吐きした。  吐き気が治まると、今度は身体中が震えだしていた。  恐怖と怒りと羞恥。  ほんの一瞬でも『俺に気があるのかも』と思った自分が恥ずかしくて堪らない。  ――単なる気紛れで玩ばれただけやったのに。何を勘違いしとったんやろう。  っていうか、俺が同じ会社の人間やって知っててあんなコトを?おまけにあの新城琢磨の恋人やなんて。  あの女……とんでもない悪女や。  夕弥の中に沸々と怒りが込み上げてきて、どうにかなってしまいそうだった。  これからどんな顔をして出社すればいいのか。  知らなかったとはいえ、こともあろうに上司の恋人とあんなコトをしてしまうなんて。  頭を抱えて、夕弥は浴槽に沈む。  なんでやねん……。  その夜、夕弥はとうとう眠ることができなかった。  窓から見える夜明けの空が美しくて、少し泣きそうになった。
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