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「ほんなら、ここで」
身を守るように、夕弥はそう言った。
「えー!一緒に帰ろうって言うたやん。もう遅いしさ、夜道の一人歩きは危険やろ?」
思いがけず責められて、夕弥は仕方なくタクシーを呼ぶことにした。
だが……。
「あ、家そんなに遠くないから歩きでいいで」
遠慮なのか何なのか分からない理由で拒否された。
「望月くんはどこに住んでんの?」
「この先のマンションやけど……」
「もしかしてサンパレス?めちゃ近いやん。あたしはその手前のハイツ」
澪は一人で盛り上がっていたが、夕弥は生返事ばかりしていた。
正直、彼女がどこに住んでいようとどうでも良かった。とにかく今は彼女が誰なのかを思い出したかった。
「ちょっと、望月くん歩くの早い」
不満そうに言いながら澪は冗談っぽく夕弥の手を繋いだ。
その瞬間、世界が止まった。
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