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当然のごとく、今夜はこのまま成り行きに任せ、澪とカンケイをもつものだと夕弥は思っていた。
一夜限りのコトは初めてだったが、あからさまに誘われたのだから仕方ないと、不埒なカンケイの言い訳まで考えていた。
「ありがとう。わざわざ送ってもらったけど、今日は家散らかってて。今度改めてお礼するわな」
だが、あっさり唇を離されてそう言われた。
「え、ああ」
歯切れ悪く呟いて、夕弥は澪の部屋をあとにした。追い出されたと言った方が正確か。
『部屋なんか散らかっててもええよ』
『ほな俺ん家来る?』
誘い文句はいくらだってあったのに、何も言えなかったことに心底がっかりした。
はぁー。
体中の二酸化炭素が抜け出たように大きな溜息をつく。
そして、この熱く滾るカラダをどうしたらいいものかと、夕弥は一人途方に暮れた。
重い足取りで家に帰り洗面所で手を洗おうとした時、ふと鏡に映る自分に目を奪われた。
唇に残る真っ赤な棘に、また溜息が漏れた。
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