第四話パトリアの異変

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「あのさ、おじさん。この辺っていつも露店の数はこんな感じ?」 「いやぁ、いつもはこんなもんじゃないさ! ただなぁ、今は情勢が情勢だからな。店を出したがらない奴が多いのは仕方ねぇのさ」 そう言うと、店のおじさんは眉根を寄せて困ったように肩を竦ませた。 「ふーん。情勢って?」 「なんだ、アンタら知らんのか? 丁度二日前の話になるか。この辺りがアステニウム鉱石の産地だってことは知ってるか、ボウズ」 燎は黙って首を振った。すると、おじさんは無言で肩を竦めるとそのまま話し続けた。 「この町には二つの大きな商会があってな。互いにそのアステニウム鉱石の産出地を巡って縄張り争いみたいな事を水面下でやってたんだ。アステニウム鉱石は、武器や防具、アクセサリーと用途が幅広いからな。だが二日前だ。二大商会であるバートン商会とゴデム商会の管轄地の曖昧な処から大量のアステニウム鉱石が発掘されたってんだから、穏やかじゃねぇや」 「曖昧って?」 「それがな、アステニウム鉱石が発掘された山自体はバートン商会の所有地なんだ。その辺りはゴデム商会が土地を所有しててな。山をバートン商会が押さえた時にも、ゴデムと一揉めあったんだが、それでゴデムとしちゃ大量のアステニウム鉱石が発掘されたとあっちゃ心中穏やかじゃねぇわな。だから、鉱石が発掘された場所は、山から続く坑道なんだが、その真上の地上はギリギリゴデムの領地だと難癖をつけたって訳さ」 「つまり、その鉱石が採れる地下の坑道は山から続く物で、その真上がゴデム商会の所有地って訳?」 大きく頷く店主のおじさん。 「全く、悪どい連中さ。ゴデムの奴らは」 おじさんは、舌打ちと一緒に吐き出すと、小さな声で、 「そういう訳で、ゴデムとバートンの間で緊張が走ってんだ。ゴデムは逆らうバートン商会の奴らを片っ端からリンチしてるらしいからな。それで、今は店を出してる連中も少ないのさ。出してるのは、オレみたいに商売魂が勝ってる奴ぐらいだ」 「そうなんだ。じゃおじさんも気をつけてね、ありがと」 一連の事情を聞いた燎とアルティアは、店主のおじさんにお礼を言うと、傭兵団の取引所へと向かった。 傭兵団の取引所は、市場から南へ向かう大通りを十分ほど歩いた場所にあった。
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