紺屋高尾

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__高尾太夫(たかおだゆう)と言えば、吉原遊郭でも一二を争う絶世の美女と名高い遊女であった。 その高尾太夫。世間では大名道具などと比喩(ひゆ)され、彼女を相手に出来る男といえば、金に糸目をつけぬ大名か豪商ばかりである。 この夜もそんな高尾太夫の相手は仙台伊達家の殿様であった。 「おい、太夫。一体いくら出せば、お前を身請(みう)け出来るんだい」 若い殿様は素肌をさらした高尾太夫の艶やかな肩をゆっくりと撫で、そこから彼女の腰へと手をまわしていく。 「いけんせん……お殿様ともあろうお人が、遊女を妾(めかけ)にして、どうしんすか。わっち(私)は吉原の女でありんす」 殿様の手の上にそっと指を重ね、太夫は彼の手を自分のやわらかな乳房に添わせる。 そうして微笑する彼女の微笑みは、まさに現世の天女そのものであった。 「太夫、吉原の女だなんてそんなことは構わねえんだ。おめえが俺の女になるなら、藩の金だろうがなんだろうが惜しむつもりはねえ、いくらでもつぎ込むつもりだ。俺は本気だぜ」 さすがは仙台伊達の殿様。 遊女だろうが、町娘だろうが自分の惚れた女に身分などは関係ないというわけだ。 気風の良い江戸庶民のような言葉で高尾太夫にまっすぐな気持ちをぶつける。
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