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が、しかし、そこは高尾太夫。
例え殿様がそう言おうとも、それは裏を返せば身分に任せ、金に糸目をつけず身請けしようというような男だともいえる。
そんな男などに、高尾は興味もクソもなかった。
「それならお殿様……この高尾の身よりも重い黄金小判で、わっちを買っておくなまし……」
天女のような微笑みから一転、悪女のような色香漂う吐息を耳元に吹きかけられ、殿様は一気に顔を青くした。
「太夫……そいつはちょっと、いくらなんでも……」
そそり立つ伊達の殿様の逸物は、彼女の途方もない言葉にすっかり縮こまった。
太夫はそんな殿様に、また天女のような微笑みを戻し、ふうっと息を洩らす。
しょせん男などはそんなものなのだ。
殿様だから、そんじょそこいらの男共より金はある。
が、遊女を相手に自分の身が危うくなるほどの金は出せない。
この高尾太夫に本気のつもりで愛をささやく男が星の数ほどいても、すべてを投げ出して身請けの出来る男など居はしないのだった。
豪商も大名も遊女を身請けしたところで、しょせん妾にしかしない。
妾を相手に身を滅ぼせる覚悟を持てる男など存在しない。
相手の身分が高ければ高いほど、そういうものなのだと、高尾はよく分かっていたのである。
こうして今宵(こよい)も、高尾の心は孤独のすきま風に吹かれ、夜は更(ふ)けていくのであった。
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